第2話 治療に科学的根拠はあるのか?
- Dr.竹田のAGA裏話
西山さん、今回もどうぞ宜しくお願い致します
竹田先生、こちらこそ宜しくお願いします。今回はAGAの治療に関して、科学的根拠などがあるのかどうかを一般の方にも分かりやすく解説して頂けるとお聞きしております
はい。やや専門的な内容も含まれますが、宜しくお願い致します。まず、その前に西山さん、『効果のある治療』ってどうやって判断するかご存知ですか?
え・・・?病院やクリニックで行う治療は医学的なもので効果があって、それ以外のものは効果があるかは不明・・・?とかですか
ん〜ざっくり正解ですが、本質的なところに少し踏み入った方が良さそうですね(笑)
①病院でも根拠が不確かな治療がある
まず結論から申し上げると病院やクリニックでも『本当に効くかどうか』不明な治療を行っていることがあります
それは許されることなのですか?
もちろんです。例えば癌治療を行っている方が国内で承認されている薬以外の薬も試してみたいと思ったらどうすべきでしょうか?現在の国内医療では主治医は海外で臨床実験中の『効くかもしれない』お薬を患者のために輸入し、投薬することが許されています
なるほど
ただし国内未承認の薬品は健康保険の適応外なので『自費診療』や『自由診療』という枠組みになります。これは前回お話した通りです
AGA治療に使用されている治療は『効くか分からない』ものということですか?
全てではありませんが、今回お話したい核心はそこにあります。AGA治療に用いられる薬や治療方法は経験にのみ基づいているものが多いのは事実です。客観的な科学的根拠に基づく治療はかなり限局的です
は、はあ・・・では、科学的根拠に基づくとはどういうことなのでしょう
②EVIDENCE BASED MEDICINE
EBMって聞いたことはありますか?
車?(笑)
それはBMWでは?(笑)EBMというのは医師の間では常識的な単語ですが、EVIDENCED BASED MEDICINE(根拠に基づいた医療)という意味のものです
根拠・・・
はい。そのEBMは現在そして未来の医療の在り方の根幹にある考え方です。とてもシンプルに言うと『論文や学会など世界中の研究者がまとめた結果に基づく医療』といったところでしょうか
ムズカシイですね
論文や学会発表などには様々なテーマ、ジャンルの研究結果が持ち寄られます。この新薬はこんな効果があったとか、こんな副作用があった、とか。あるいは既存の治療は実は全然効果が無かったのではないか、などもあります
はい
専門用語ですが、科学的・客観的に根拠がある度合いをエビデンスレベルと呼びます。この表をご覧ください
これは代表的なエビデンスレベルの分類をまとめた表です。レベル1→6の順に『科学的根拠』は乏しくなります
AGAの治療はレベルいくつなのですか?
最も良くてもレベル4です。基本的にはレベル5で、内容によってはレベル6です
ですが先生、素人的にはレベル4がどの程度の客観性があるのかピンと来ません
そうですよね、それは仕方ないと思います。一般に保険証が使える医療(保険診療)は大方レベル1〜2が主軸です。詳細は割愛しますが、レベル1〜2になると『薬Aを試す患者群と試さない患者群を比較すると、統計学的に明らかに差が出る』という論文が必ずまとめられています。もちろんレベル3以下の根拠性であっても保険診療に含まれる医療行為もあります
根拠がある、ないの判断基準はエビデンスレベルを確認すれば良いというのは分かりました。しかし先生、どこでエビデンスレベスを確認するのですか?
エビデンスレベルは主に各学会・団体がまとめる『ガイドライン』に記載されています。学会や団体の専門家たちが話し合って、『この治療はこんな根拠(論文や発表内容)があるからエビデンス2Bだよね』という感じです。従ってガイドラインが存在する疾患や治療内容は、それを参照すれば治療根拠に関して知ることができます
ガイドラインが無い治療内容はどうすれば良いのですか?
西山さん、良いところに気づきました。AGAの治療内容の一部は『ガイドライン』すらありません。現状、治療の客観性に答えるためにはご自身で世に発表されている論文や学会発表などを調べるしかありません
だったらAGA専門医のドクターに教えてもらう方が良くないですか?
そこはリテラシーの問題ですよ。ドクターの言うことは絶対正しいと安易に受け入れることは、高額な治療費を支払うことになっていく可能性があります
③AGA治療のエビデンス
ま、確かに『自分で調べろ』と言われても困りますよね。なので私が簡単にですが国内で実施されているAGA治療と、それらの客観性(エビデンス)に関してまとめてみました。もちろん自分自身で調べることも大切ですよ
はい
まず始めに日本皮膚科学会がまとめた『ガイドライン』をみてみます
《推奨度の分類》
A 行うよう強く勧められる(少なくとも 1 つの有 効性を示すレベルⅠもしくは良質のレベルⅡのエビデ ンスがあること)
B 行うよう勧められる(少なくとも 1 つ以上の有 効性を示す質の劣るレベルⅡか良質のレベルⅢあるい は非常に良質のⅣのエビデンスがあること)
C1 行うことを考慮してもよいが,十分な根拠がな い(質の劣るⅢ~Ⅳ,良質な複数のⅤ,あるいは委員 会が認めるⅥ)
C2 根拠がないので勧められない(有効のエビデン スがない,あるいは無効であるエビデンスがある)
D 行わないよう勧められる(無効あるいは有害で あることを示す良質のエビデンスがある)
※ただし,本文中の推奨度が必ずしも上記の判断基準 に一致しない場合がある.人種的差異,分野によるエ ビデンスの不足,日本の社会的特殊事情,さらにガイ ドラインの実用性を勘案し,エビデンス・レベルを示 した上で推奨度を決定した.
このガイドライン上は、男性型脱毛症(AGA)にはミノキシジル外用およびフィナステリド内服は強く推奨されています
その他にもいろいろありますね
植毛に関しては推奨される根拠のあるものはありますが、その他は全て『明確な根拠なし』に該当します。ちなみに上記のミノキシジル外用は『メソセラピー』に該当します
あれ?竹田先生。ミノキシジルって飲み薬もありますよね?
はい。実はほぼ全てのクリニックで提供されるミノキシジル内服治療はこのガイドラインが作成された後に研究されたAGA治療方法なので、このガイドラインには載っていません。科学的根拠が乏しいのは事実ですが、ミノキシジル内服は経験的に発毛効果があり、わたくし個人としては強く推奨しています
エビデンスレベルは6ですね(笑)
はい(笑)ここまでをまとめますと日本国内のガイドライン上、科学的根拠があるとされるのは①メソセラピー療法、②フィナステリド内服のみです。一方、当院では採用していませんが、その他にもAGA治療方法として幹細胞移植療法、(ノン)ニードル電気療法、各種シャンプーなどがあります。しかし残念ながらこれらの治療には科学的根拠は見つけられませんでした。
ちなみにですが、竹田先生はどのようにお調べになるのですか?
医師であれば皆知っていますが、私は『Pubmed』で論文検索や症例報告などを探しています。一般の方もご利用できますので、気になる治療があればキーワードから検索してみてください。ただし基本的には英語利用のみですのでその点はご留意ください
本日も長い間、ありがとうございました
ありがとうございました
まとめ
- 科学的根拠があるのはミノキシジル外用およびフィナステリド内服のみ
- その他のAGA治療には科学的根拠は乏しく『経験的』治療である可能性が高い
- 『宗教的』『空想的』治療に対し、多額の治療費を支払うことのないように医学リテラシーをしっかりとつけよう